2024年は韓国のクリーン水素経済の活性化において極めて重要な年である。韓国はクリーン水素の生産と活用を促進し必要なインフラを造成するために二つの記念すべき制度を今年から施行する。第一は「クリーン水素認証制」で、第二は「クリーン水素発電入札(Clean Hydrogen Portfolio Standards; CHPS)」である。この二つの制度は両方とも2024年に本格的に施行され、二つの制度間の有機的な連携を通じて、クリーン水素のバリューチェーン全般において強いモメンタムが形成されると予想される。
韓国の水素産業の現況
韓国は2021年11月に「第1次水素経済履行基本計画」を発表して以来、2022年11月の第5次水素経済委員会を通じて発表された「クリーン水素生態系造成案」、「世界一等水素産業育成戦略」、2023年12月の第6次水素経済委員会の案件である「クリーン水素認証制運営案」、「水素産業素・部・装(素材部品装備)育成戦略」などの多数のクリーン水素関連政策を発表してきた。このような韓国政府の積極的な意志に基づき、韓国の水素産業は持続的に拡大している。政府が水素産業を育成するために指定した「水素専門企業」は2022年初めには32社に過ぎなかったが、2024年初めには計91社へと二年間3倍の水準に増える成果を示した。
<表1> 韓国の水素産業の動向(2022年12月)
水素経済総合ポータル(h2hub.or.kr)によると、2020年水素産業分野の売上総額は2021年に比べて約51%増加した12.5兆ウォン規模と推計され、水素分野の投資総額は前年比418%増加した4.1兆ウォン規模と確認された。水素産業の従事者数は約34,380人であるが、そのうち水素活用部門の従事者が63%以上を占めており、これは現在まで韓国の代表的な水素の活用先である水素自動車と水素ステーションの普及が着実に拡大したためと判断される。2020年3月基準で韓国内に登録されている水素自動車は34,872台で、まだは乗用自動車がほとんどを占めているが、今後、政府の積極的な水素商用自動車普及政策によって乗合自動車、貨物自動車、特殊自動車なども持続的に普及すると予想される。韓国の商業用水素ステーションは2022年から急速に構築され、2024年2月には計290ヵ所が確保されている。
クリーン水素の生産を促進するための「クリーン水素認証制」の導入
2023年12月、韓国は「クリーン水素認証制運営案」を通じて韓国型水素認証制度の施行を公式化した。「クリーン水素認証制」とは水素の生産および輸入までの過程で発生する温室効果ガスの排出量を測定し、一定基準値以下の温室効果ガスを排出する場合、その水素をクリーン水素と認証し、それに対する行政的、財政的な支援ができるようにする制度を意味する。韓国政府は国際動向や国内の技術水準およびインフラなどの国内の環境を反映し、韓国のクリーン水素認証基準を4kgCO2eq/kgH2と確定した。温室効果ガス排出量の算定範囲(system boundary)をウェル・トゥ・ゲート(Well to Gate、原料の採掘から水素の生産時点まで)と定めているが、海外のクリーン水素の調達が避けられない国内の特殊性やエコ船舶の技術開発の動向などを考慮し、原料調達およびCO2運搬のための船舶の排出量は時限的に温室効果ガスの算定範囲から取り除くと発表した。また、韓国の「クリーン水素認証制」は、水素生産のための技術ルートを特定しない「技術中立性」を主要原則として示しており、認証基準を通過した水素には温室効果ガス排出量によって4つのレベルのクリーン水素認証レベルが付与される。(<表2>を参照)
<表 2> クリーン水素認証レベル
(単位:kgCO2eq/kgH2)
* 資料 : 韓国政府(2023)、「クリーン水素認証制運営案」
現在、政府はクリーン水素認証制度を運営する専門機関を指定し、クリーン水素を生産または輸入しようとする事業者が水素生産設備の構築前あるいは量産前にクリーン水素認証関連のコンサルティングを受けることができる水素認証モデル事業を運営している。
クリーン水素活用の促進に向けた「クリーン水素発電入札市場(CHPS)」の開設
韓国は国の温室効果ガス排出目標(NDC)を達成するためには発電部門における水素の活用が欠かせないと認識し、発電部門でのクリーン水素の活用に向けた制度的な基盤を整えてきた。2023年、「第10次電力需給基本計画」で2030年の水素・アンモニア発電の割合を2.1%(13TWh)と掲げており、そのためには発電部門だけで約80万トンのクリーン水素の消費が必要となる。このような政府の目標に発電会社が自主的に参加する誘因を設けるためにCHPS制度が作られた。CHPSは2027年からスタートするクリーン水素発電量の先渡市場を開設し、水素発電量に対して最長15年間の長期購買契約をクリーン水素発電事業者と締結する制度である。(<表3>を参照)
<表3> クリーン水素発電入札市場の開設数量
* 資料 : 韓国政府(2023)。「水素発電入札市場の年度別購買量算定等に関する告示」
CHPSで水素発電量を落札された事業者は、クリーン水素発電によって増加した発電単価を差額支援の形で補填してもらうことができ、長期間確保された確実な需要先を基盤に、クリーン水素の生産および輸入、インフラなどの事業者との契約および投資を進めることができるようになる。ただ、クリーン水素発電入札市場に参加するためには発電燃料として使われる水素またはアンモニアがクリーンな形で生産されたことをクリーン水素認証制あるいはクリーン水素認証制モデル事業などを通じて立証する必要がある。CHPSはクリーン水素の活用によって発生する費用を支援することで、クリーン水素の活用へのアクセス性を高め、クリーン水素生産の不確実性を軽減して水素産業生態系全般の活性化に貢献する。
このように現在、韓国の水素経済政策は2030年のNDC達成に実質的に貢献できるように進められている。2024年からクリーン水素生態系の造成に向けた多様な制度に基づいて3年間準備を行ない、その次の3年間練習をして2030年を迎えるべきである。
<本稿の内容は、筆者の個人的見解であり、必ずしもKOTRAの見解ではありません。>