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[素材・部品]エンジニアリング・プラスチック産業の展望
作成日
2017.02.02

プラスチックは金属やセラミックと共に生活の至るところで利用されている。プラスチックは軽く変形が容易であるため部品の大量生産ができ、生活用品のみならず電気・電子機器、輸送機器、宇宙航空、3Dプリンターなど先端産業に広く利用される。また、連続使用可能温度によって汎用プラスチック、エンジニアリング・プラスチック(エンプラ)、スーパーエンジニアリング・プラスチック(スーパーエンプラ)に分類される。例えば、連続使用可能温度が100℃以下であるポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)などは汎用プラスチックに属する。ポリカーボネート(polycarbonate、PC)のように連続使用可能温度が100~150℃であればエンプラ、150℃以上であればスーパーエンプラに分類される。汎用プラスチックとエンプラは一般に生活用品に利用されるため、大量投資・大量生産・大量消費される産業である。一方、特殊な汎用プラスチックとエンプラは宇宙航空などにしか利用されないため、少量多品種生産され価格が割高である。

エンプラとスーパーエンプラのグローバル市場は2014年ベースで計886万トン(44兆ウォン)から今後年平均3.5%成長し、2020年には1080万トン(53兆ウォン)に達するとみられる。現在、ポリカーボネートとポリアミド(polyamide, PA)、ポリアセタール(polyoxymethylene、POM)などの汎用プラスチックが市場の93.5%を占めており、残りの6.5%をスーパーエンプラが占めている。つまり、エンプラのほとんどは主に汎用プラスチックに使われ、特殊なスーパーエンプラの活用は非常に限られている。産業成長率は汎用プラスチックが年平均3.5%、スーパーエンプラが4.1%と見込まれている。

韓国の2013年の化学生産額は約1770億ドルと、日本やドイツなど先進国に匹敵する世界5位の生産規模を誇る化学産業立国である。70年代から始まった重化学工業育成策により、原油からエチレンなどを抽出するアップストリームと製品を作るダウンストリームはシステマチックに発展してきた。石油化学産業の全体でプラスチック産業が占める割合は出荷額ベースで約17%と推計されている。出荷額は汎用プラスチックや1990年代にはナイロンとPET(ポリエチレンテレフタレート、polyethyleneterephthalate)、2000年代にはポリカーボネートとポリアミドフィルムの使用が増え、エンプラの比率が次第に増加している。最近、電子電気産業の発達によりウェアラブル機器の使用も増え、エコな未来型自動車時代が到来したことで物性に優れて軽く、エコな素材に対する需要が高まっている。これこそ多くの先進国でエンプラを今後の新成長エンジンとしている理由と言えよう。エンプラの成長を牽引する主な要因としては以下が挙げられる。

1. 軽量化


温室効果ガス削減の広まりと燃費規制の流れが形成されたことで、軽さを徹底追及した自動車の開発に拍車がかかっている。1.5tの乗用車の重量を10%減らすと燃費は3.8%向上し、排気ガスは4.5%減少、車の耐久性は1.7倍増加すると言われている。韓国を含め米国、EUなどは厳しい燃費規制を公言している。そのため、各国の自動車メーカは生産に必要な素材の軽量化に莫大な研究資金をつぎ込んでいる。エンプラの真価はここで発揮される。スーパーエンプラは金属に代替できるほどの強度と耐熱性がある。また、重さは金属の半分以下であるため自動車の軽量化になくてはならない素材でもある。

2. エコ化

石油化学の産物であるプラスチックは有害性の有無に関わらず、環境にやさしくないというイメージが付きまとう。したがって、エンプラが利用され続けるためにはエコ化が欠かせない。エコ化は大きく3つに分けることができる。第一に、素材の製造工程で発生する揮発性有機化合物(volatile organic compounds、VOC)などの有害物質を削減するエコな工程、第二にバイオマスなど環境にやさしい原料で作られるバイオプラスチックの利活用、最後に自然作用によって分解される生分解性プラスチック(bio degradable plastics)の使用である。エコなエンプラ素材は早速生活用品・輸送機器・電気電子産業などの消費者に身近な産業に適用されると思われる。

3. 機能化

もしプラスチックが熱を発したり金属のように艶を出すことができたらどうだろうか。エンプラの機能化は完成品の高付加価値を高めることにも関連している。携帯電話のようなウェアラブル機器の高機能化は同産業の発展に多大な影響を与えると予想される。このように、今後エンプラは軽量化・エコ化・機能化が進み、韓国のみならずグローバル市場でも着実に成長していくものと思われる。

■ 今後の展望

1. 研究と投資

エンプラ素材の開発を持続的に行うことは技術発展においても非常に重要であり、そのためには産学研の緊密な協力が伴わなければならない。大学では基盤技術を開発すると同時にエンプラに特化した人材育成にも注力することが求められる。そして国公立研究所では材料の最適化や融合技術の開発に取り組み、企業では事業性と経済性の分析を通してグローバル市場に対応可能な実用化・生産技術の開発を進めることが必要だ。 このようにして開発された技術はあらゆる所に利活用できる。前述したとおり、韓国のエンプラ産業の基盤は比較的脆弱であるが、外国資本を積極的に投資することで活路を見出すことができる。外資誘致には立地と人材という2つの要素が鍵を握る。立地は産業要地へのアクセス・税制優遇といったハードウェア面を意味し、人材は生産施設をより効果的に運営するソフトウェア面を意味する。たとえ国内資本で生産しないとしても、海外投資の活性化には技術と人材の確保が欠かせない。すでに東レとドイツのBASFなどは直接投資を通して国内にPPSやPES工場を設置、海外投資誘致のよき例と言える。

2. 貿易環境の変化

韓中FTAは2015年12月に正式発効された。素材産業における韓国の自由化率は中国より比較的高い。中国にはすでにグローバル化学企業らが多く進出しているため、国内市場が脅かされかねないとの懸念が出ている。しかし、未だに多くの外国企業は中国進出を夢見ながらも人材管理、金融不安、所得格差などの問題が故に投資に及び腰になっているのが現状だ。 したがって、韓国が人材・技術・国家ブランドの面において中国より強みを持っているということをアピールし、韓中FTAが対韓投資の誘致にポジティブな効果をもたらすように働きかけることが重要だ。韓国に進出したグローバル素材企業は韓国のエンプラ分野を足がかりにして中国市場に参入できる。言い換えると、韓国が中国進出における拠点となるわけだ。東レが韓国郡山に直接投資したPPS工場が良い例だ。 オバマ米政権が推進してきた環太平洋連携協定(TPP)はトランプ新政権が離脱を宣言したことで今後の見通しが暗くなった。TPPは太平洋地域とのFTAだが、韓国にとっては日本とのFTAという意味合いもある。エンプラ素材産業においてTPPの不確実性の高まりは追い風になる。日本は電子材料などに使われるプラスチックに強いため、韓国の高付加価値のあるエンプラ産業は劣勢に立たされる。そのため、韓国は時間の余裕をチャンスに捉え、技術開発に拍車をかけ日本とのFTAに備えるべきである。

3. 産業のパラダイムシフト

最近、「第4次産業革命」が話題となっている。ビックデータ、共有経済、自律走行車、IoT、3Dプリンターなどのキーワードに代表される第4次産業革命はすでに始まっている。従来の産業構造から脱皮し新しい産業が台頭しようとしている。第4次産業革命はソフトウェアを中心に行われているが、ハードウェアとして素材の重要度も増している。たとえば、自律走行車分野では軽量化が、IoTでは特殊プラスチックを用いたセンサーの開発が求められている。新しい製品をスマートに生産する3Dプリンターでもエンプラの重要度が高まることは間違いない。 新しい産業が次々と生まれればスタートアップにも多くのチャンスが訪れるようになる。スーパーエンプラは先述したように少量多品種生産を基盤とするため、第4次産業革命の構造に最適化された分野と言える。広大な敷地や莫大な投資がなくても技術を基盤にして小規模の事業を掘り起こすことができるメリットもある。また、スタートアップ企業が成長すれば、技術投資を通して行われる海外直接投資やM&Aを利用した企業の韓国進出が活発になる。企業と政府は第4次産業革命におけるプラスチック素材の重要性を認識し、研究開発に本腰を入れなければならない。

■ 結論

韓国のエンプラ技術開発と生産の歴史は先進国に比べるとまだまだである。しかし、エンプラ分野は軽量化・エコ化・機能化に対するニーズに支えられ持続的に成長すると見通されているだけに、韓国は高い技術力と熟練した人材をテコに海外投資誘致に積極的に乗り出すことが必要だ。もちろんFTA、TPPなど貿易環境の変化と第4次産業革命など産業のパラダイムシフトが起きている、技術開発の協力やスタートアップの設立を通して強みを際立たせていけば、エンプラの主力産業である自動車・電気電子産業と共に持続可能な成長が期待される。



By キム・ヨンソク博士
韓国化学研究院 責任研究員 / yongskim@krict.re.kr


< 本稿の内容は、筆者の個人的見解であり、 必ずしもKOTRAが所属する組織の見解ではありません。>

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